勝手に商標登録!?「ゆっくり茶番劇」から見る動画と商標権

2022.10.17

2022年5月、YouTube・Twitterを中心に「ゆっくり茶番劇」というワードが話題になりました。その原因は「商標権」に関するトラブル。ユーザーだけでなく、大手動画配信サイト「ニコニコ動画」や、地上波テレビのニュースでも取り上げられたこの「ゆっくり茶番劇商標登録問題」から、インフルエンサーマーケティングにも関わってくる「商標権」について考えます。

「ゆっくり茶番劇」とは?

「ゆっくり茶番劇」とは、YouTube・ニコニコ動画などで人気を博しているゲームコンテンツ「東方project」のキャラクターをモチーフにした二次創作です。「ゆっくり」と呼ばれるイラストに文章読み上げソフトの音声を追加した動画の1ジャンルで、2008年頃からこうした動画が制作されるようになり、YouTube/ニコニコ動画を中心に少なくとも80万本以上の動画が投稿されているとも言われています。「東方project」の原著作権を持つ同人サークル「上海アリス幻樂団」は「二次創作であることを明記すれば常識の範囲内で基本的に自由に利用してよい」というガイドラインを発表しており、利用料等も請求していません。そのため、漫画・イラスト・動画などネットを中心にファンによる二次創作が多数発表され、「ゆっくり茶番劇」もその二次創作ジャンルの1つとして盛り上がりを見せることになりました。こうした中で発生したのが「ゆっくり茶番劇商標登録騒動」だったのです。

騒動の経緯

では、これらの背景を踏まえ、今回の騒動はどのようなものだったのでしょうか?

 ことの発端は、動画投稿者のA氏(仮名)が2022年5月15日に「『ゆっくり茶番劇』の商標権を取得した」「『ゆっくり茶番劇』等の名称を利用する場合は年間10万円の使用料が必要となる」という趣旨の発表を行ったことでした。

 A 氏が商標申請時点においては原作者とは繋がりのない一ユーザーにすぎなかったことや利用料の徴収など、ネット上ではユーザーを中心に批判が殺到。こうした批判を受け「ニコニコ動画」の運営会社である株式会社ドワンゴが「商標権の放棄交渉を行う」等対応を発表したほか、特許庁も問い合わせを受け「悪意のある商標権登録である」「原著作権者から申し立てがあれば、登録取り消しの方向で再審査する可能性もある」旨のコメントを発表するなどの騒動に発展しました。 A氏は当初「法的に問題は一切ない」とし自身の正当性を主張。その後主張を軟化させて「使用料支払いは不要とする」旨を発表しましたが批判の声は止まらず、商標登録抹消手続きを行いました。結果として6月8日付でA氏が商標を放棄したことが特許庁の情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で確認され、この騒動はひとまずの決着を見ることとなりました。

「商標権」とはなんなのか?

今回のA氏の行動が批判を集めたのは、多くのユーザーに親しまれていた「ゆっくり茶番劇」というコンテンツに対し、一方的に「自己の商標だ」と主張し、その動きを突如として発表したことにありました。ですが、そもそも「商標」とはなんなのでしょうか?

「商標」とは、特定の商品やサービス、名称が権利を持つ人のものであることを明らかにする標章のことを指します。商標を特許庁に登録しておくことで、例えば自身の持つ商標がマイナスイメージになりうる利用方法で用いられることを防ぎ、ブランド力の向上に繋げることができます。つまり「商標権」とは、これらの登録された商標に対する権利のことを指しており、今回の騒動では商標「ゆっくり茶番劇」に対する商標権を原著作権者ではないA氏が勝手に取得した、ということが大きな問題になりました。近年大きく問題になっている「偽ブランド商品」などは各ブランドが持っている商標を勝手に利用して利益を上げようとしている、という点において、商標権の侵害になるわけです。

こうした商標に関する権利や侵害した場合の罰則は、商標法第78条、第78条の二に定められており、商標権を侵害した場合は「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方」、侵害行為とみなされる行為をした場合は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」と、重い罰則となっています。また、こうした刑法上の罰則だけでなく、民事訴訟によっては多額の賠償金を請求されるケースもあり、注意が必要になるのです。

動画・SNSで気を付けたい商標権:ロゴマーク

 ここからはインフルエンサーマーケティングを行う際に気を付けるべき商標を見てみましょう。

 リスクが高い商標の一つが「ロゴマーク」です。例えばYouTubeのロゴを使用する場合、、画像の解像度、印刷時のサイズなど、細かなルールを設けています(参考…YouTube公式HP『Brand resources』):https://www.youtube.com/howyoutubeworks/resources/brand-resources/#logos-icons-colors(英語))。

 基本的にロゴマークはデザイン性など、多くの権利が関係してくる商標の1つです。例えば他社の商品が映像に写り込んだりすることでも、大きなリスクになる場合が多くあります。

動画・SNSで気を付けたい商標権:文字商標

 商標はロゴなどデザイン面に限りません。「ゆっくり茶番劇」と同様、例えばチャンネル名や動画タイトルなど文字情報を商標として登録する「文字商標」も、動画内で登場しがちなものの1つです。 文字商標は適用される範囲が非常に広いので、意図せずに商標権を侵害してしまう可能性もある、という点に気を付ける必要があります。また、企画としてパロディを考えた際に名前の類似などが発生すると、それも商標権の侵害と判断される可能性があります。

動画・SNSの投稿は、大きな拡散力を持っている分、一つの権利侵害が大きなダメージを生み出しかねないという危うい側面も持っています。今回の1件を踏まえ、改めて自社のSNSがどのような発信をしているか、見直してみるのもよいかもしれません。